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media exprimo 宣言

media exprimo:市民のメディア表現と情報デザインの新たな地平

2007年3月6日
須永剛司、堀浩一、西村拓一、水越伸

1.日本のメディア社会:豊かさと貧しさのはざまで

1990年代半ば以降、日本のメディア社会にはインターネットやケータイなどが急速に普及してきました。21世紀にはいると数多くの人々が、ブログやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)あるいはビデオカメラなどを使い、自らのことや地域のことを語るさまざまな表現をはじめています。マスメディアだけではなく、誰もメディア表現や情報発信できる時代になってきたともいわれます。
しかしはたして本当に豊かなメディア社会を、私たちは生きているといえるのでしょうか。
よく目を凝らしてみましょう。

日本のケータイ普及は一億台に達しましたが、最近では通話にはあまり使われず、ごく限られた仲のよい人たちとのメールのやりとりに使われています。ケータイにはたくさんの機能がありますが、多くの利用者はそれらを使わず、ケータイの技術と文化の間に大きなギャップが生じています。ブログやSNSも急速に普及していますが、利用する人としない人の間には年齢や地域、学歴などによる格差、いわゆる情報格差が歴然とあります。
海外では見知らぬ人とつながり、新しい社会活動を生み出す場合が多いこれらのサービスが、日本では仲間内のコミュニケーションにばかり使われる傾向があります。またPC経由でも、ケータイのiモードやEZweb経由でも、ネットショッピングやチケット購入、オークションなどのビジネスライクなサービスが、ネット空間で圧倒的な位置を占めています。そんななかでネットでの誹謗中傷、プライバシー侵害、ケータイを用いた犯罪は後を絶ちません。

新聞やテレビなどのマスメディアは、これらデジタル系のメディアに押されているといわれていますが、世界の先進国に較べても大変大きな力を安定して維持しているといえます。しかし半世紀以上続く東京一極集中、護送船団方式のそのあり方は新しいメディア環境に十分適応できてはおらず、やらせやねつ造問題が続出し、マスメディアは今、国家権力と一般の人々の両方から批判されています。

もしも生態系にたとえるならば、日本のメディアの生態系はマスメディアの強い影響力のもとで、いまだに相変わらず大衆消費社会的な特徴を示しているといえます。その中で、一方では「プライベート」なコミュニケーションは大変さかんで、他方では「コマーシャル」なサービスも卓越しているといえます。しかしながら、まちおこし、ボランティアやNPO、教育や福祉、環境、国際交流などの市民活動、地域に根ざしたジャーナリズム、一般の人々の表現芸術、祭りなどの伝統芸能といった「パブリック」なコミュニケーションが十分に展開しているとはいいがたい状況です。「パブリック」なコミュニケーションは、メディア社会のなかで個人のアイデンティティやコミュニティの再生のために、民主主義社会の維持、発展のために欠かすことができない重要な営みであるにもかかわらず。

日本のメディア社会は、「プライベート」「コマーシャル」、そして「パブリック」なコミュニケーション活動のバランスが十分にとれないまま、情報技術だけが発展するという状況におかれているとはいえないでしょうか。



2.「情報があふれかえる社会」から「表現が編みあがる社会」へ

くり返しいえば「プライベート」な、あるいは「コマーシャル」な情報は、メディア社会にあふれかえっています。誰もが簡単にメディア表現や情報発信をできるような技術的な環境は充実しつつあります。しかし情報技術にきちんとしたデザインが施されて、人々が十分に使いこなすことができ、文化的に意味のあるメディアが生み出されているわけではありません。また多くのサイバースペースやオンライン共同体は、仲のよい人々だけのために「プライベート」に閉じた使われ方には向いています。その中で、人々を消費者、お客様とする「コマーシャル」なサービスの供給の場にはなっているのですが、人々がメディア表現者となって自らの気持ちや思想を表したり、自分たちの手で地域に根ざした「パブリック」なネットワーク作りができるようには、十分にデザインされてはいません。

私たちは、日本のメディア社会を、無秩序な情報がただあふれかえる混沌とした社会から、自律的なネットワークを生み出し、多様なかたちで表現を編集し、つないでいくことができる社会へと、組み替えていくことができないでしょうか。それも一部の権力者や専門家に任せてそれをやってもらうのではなく、いわば市民参加型でそれができないでしょうか。


「情報があふれかえる社会」から「表現が編みあがる社会」へ。


  そのためには法律制度や産業経済の領域での調査研究や、改革といった、ある意味でトップダウン型のアクションも必要でしょう。しかし今回私たちは、よりボトムアップ型の提案をしようとしています。日常生活世界のなかで普通の人々が表現し、ネットワークを広げていく活動を促進するための技術システムと文化的プログラムを、情報デザインの力で生み出していこうというものです。それらの技術システムと文化的プログラムは、それを用いる人々の目的や、コミュニティの条件に応じて、市民参加で改変、応用できる柔軟性をも持ったものとしてデザインされます。

私たちのボトムアップ戦略は、法律制度や産業経済的なトップダウン戦略と補完的な関わりを持ち、より多様性のある、豊かなメディア社会を生み出すための鍵となる活動として位置づけることができると考えています。



3.メディア・エクスプリモ、始動する!

このようなボトムアップ戦略を展開していくための具体的な企てとして、今回私たちはメディア・エクスプリモ(media exprimo、以下エクスプリモと略す)を始動させました。 エクスプリモは、市民のメディア表現をより豊かに、持続的に育むことを目指した学際的な研究プロジェクトの名前であり、近い将来に生み出される具体的な技術的システムと文化的プログラムの総称です。

このプロジェクトは、情報デザイン研究を中心として、インターフェイスとSNSの技術的研究、人工知能と知識支援システムの研究、そして人文社会的なメディア研究に取り組む4つの研究グループが、文理横断的、学際的に協働して進めています。その結果として、新しいメディア表現者たちを支援するデジタル情報技術のシステムと、リテラシーや表現活動をめぐる文化的プログラムを研究開発していく予定です。
エクスプリモの全体目標は次の通りです。

(1)「表現が編みあがる社会」を成り立たせるための技術システムを開発し、それに情報デザインを施すこと
(2)「表現が編みあがる社会」を生み出すための文化的プログラムを開発し、それに情報デザインを施すこと
(3)「表現が編みあがる社会」のかたち、様式をデザインすること
また4つのグループの役割と、開発目標は次の通りです。

■西村グループ(実世界指向インターフェイス、コンピュータ支援協働活動研究)
(1)メディア表現者や表現作品の関係性の網の目を可視化するネットワーク・システムをつくること
(2)表現のプロセスを跡づけ、振り返ることができるデバイスをつくること

■堀グループ(人工知能、知識支援システム研究)
(1) 個別の表現を集め、組み合わせた集合的メディア表現に「物語」を構築したり(結晶化/網絡化(ネットワーク化))、すでにあるの「物語」を脱構築(液状化・断片化)することができる知識科学的エンジンをつくること
(2) 人々が手動で物語ることもシステムが自動で物語りを構成することもできるシステムをつくること

■水越グループ(ソシオ・メディア論)
(1)現代メディア社会がはらんでいる問題を批判的に意識できるようなメディア・リテラシー(メディア受容能力)のプログラムをつくること
(2) 人々(people)がメディア表現したくなるような場をつくること、表現活動に必要なメディア・リテラシー(メディア表現能力)のプログラムをつくること
(3) エクスプリモ全体の理論的、思想的枠組みを構築すること

■須永グループ(情報デザイン研究)
(1) 西村グループ、堀グループの開発した技術システムを、表現のための道具としてパッケージングし、デザインすること。とくに表現のプロセスを可視化するインターフェイスをつくること
(2) 人々がその表現のための道具を用いるときの利活用の様式をデザインすること
(3) エクスプリモ全体のアウトプットを統合的にデザインすること



4.基本的方法論と実践活動の展望

エクスプリモは、さしあたりパブリックな市民のメディア表現活動が具体的におこなわれている場所を選び、そこでの一種の社会実験を通して、「批判的メディア実践」というしかけによって4グループが協働していく予定です。ここでは「批判的メディア実践」と、実践や社会実験の中身について説明しておきます。

■(1)ワークショップとしての「批判的メディア実践」(critical media practice)
ワークショップとは一般的には、グループになって何かを作ったり、ゲームのようなプログラムの中で学び合ったりする、参加体験型の学習や創造の形式のことです。最近ではまちづくり、企業研修、環境デザイン、地域計画、メディア・アートなど、講義や読書では深く理解できないようなことがらを学んだり、生み出したりするべき領域で、さかんに用いられるようになっています。

media exprimoで用いるワークショップにも、学習や創造のためのグループ活動という普通の目的や役割もあります。しかしそれだけではなく、ヨーロッパのデザイン研究で用いられている「カルチュラル・プローブ(cultural probe)」という手法を参考にしながら、ワークショップの意味合いをより多角的に拡張したものを実践します。

すなわち、メンバーが開発した技術システムや文化的プログラムを実社会に投入して実験をし、その評価分析をおこなう場としての意味や、市民参加型のメディア作りの場としての意味を持たせたのです。このような拡張され、多角的な機能を持ったワークショップや、それに準じたメディア活動を、ここでは「批判的メディア実践(critical media practice)」と呼ぶことにしています。

批判的メディア実践においてワークショップは、次のような働きを持つことになります。すなわち、私たちは人々のメディア表現を活性化するための技術システムを「設計」し、それを活用したワークショップを「企画」し、それを具体的な時間と場所で「実践」します。「実践」の成果を「評価分析」して、その知見をもとにして、よりよい「設計・企画」をしていきます。これをらせん的にくり返しながら技術システムと、ワークショップという文化的プログラムの性能を向上させていくわけです。ここまでは一般のワークショップの場合と同様です。

これが開発者、ファシリテーターを主体としてみた場合の図式であるとすると、ワークショップに参加する側からすればこうなります。すでにしつらえられたワークショップに「参加」し、なにものかを「表現・創造」します。実践の後半では「振り返り」をすることで、より深い理解と学びを手に入れます。これらの経験をした人々は、次に自らがワークショップを「企画・設計」し、技術システムを改変したり、操作できるようになり、ファシリテーターとして「実践」を差配できるようになります。「批判的メディア実践」は、このような参加可能性に向けて、つねに開かれているのです。

これら二つは密接に関わり、相互作用しています。つまりmedia exprimoのワークショップでは、観察する者とされる者、研究者と一般の人々、研究活動と学習活動が密接に関わり合い、交わり合って立ち現れているのです。

このように多角的な働きを持った「批判的メディア実践」としてのワークショップを知的エンジンとすれば、技術システムの研究開発を担う西村グループ、堀グループも、文化的プログラムの研究開発をになう水越グループも、それらを総合する情報デザインをになう須永グループも、それぞれが役割を持って、協力をしながら共同研究を進めることができます。こうしたワークショップの積み重ねが、media exprimoの求心力と、研究開発推進力となっていくはずです。


■(2)ローカル放送局、博物館などに着目した社会実践
「パブリック」な領域にも、さまざまな活動や施設があります。エクスプリモではなるべく拡がりのある技術システムや文化的プログラムの開発を目指していきますが、それらに一般性を持たせるためにもまずは、具体的な状況に取り組み、個別の課題を克服しつつ研究開発を進めることが必要になると考えています。いわば汎用性を求めるために、個別事例に取り組むというやり方をとります。

このためプロジェクトの前半では、とくに地域社会における放送局や博物館の働きに注目をしていく予定です。これらの、いわば公共的な文化装置は、地域社会のなかで市民がメディア表現を展開するときに、有形無形のかたちで苗床となり、センターとなる場です。エクスプリモではそれら諸施設をネットワークしつつ、「批判的メディア実践」を実施する予定です。2007年前半までは、東京などの大都市と中小規模の地方都市において対照実験することを念頭に、水越グループを中心に地域選定のための調査を重ねます。

エクスプリモでは日本国内だけではなく、欧米や東アジアなど海外の研究パートナーらと協力しつつ、「批判的メディア実践」を展開し、私たちが生み出そうとしているシステムやプログラムの日本的な特性を理解し、限界を超えていく方法見出していく予定です。



5.エクスプリモが生み出すもの

エクスプリモの具体的な成果物の姿は、前述の具体的な地域社会における公共的文化装置での応用実践のなかから見えてくるはずです。私たちの生み出すシステムやプログラムの利用者は一般の人々(people)です。一般の人々は、専門的芸術家や研究者、企業などの技術者とはちがい、特定の目的のために限定された技術を用いて活動するわけではありません。

市民は自分の人生や地域の暮らし、時代状況に応じて、それぞれの問題関心を持って、じつに多様なかたちでメディア表現に活用をします。その状況を尊重し、システムやプログラムを開発していくことが、エクスプリモの課題であり、ユニークさ、おもしろさだといえます。
  そうしたことを前提とするならば、私たちの成果物はおよそ次の4点としてまとめることができるだろうと考えています。

■(1) 脱構築エンジンを活用した社会ネットワーキングシステム
堀グループの脱構築エンジンに裏打ちされた表現支援システムを用い、西村グループを中心として、遠隔地の表現者が集ったり、過去の記録や記憶をアーカイブしたり、作品や成果をダイナミックに編集したりできるオンライン・システムを開発します。そのインターフェイス・デザインは須永グループが担当します。
このシステムは、ケータイなどの「パーソナル」なサービスや、大型のポータルサイトやSNSなどの「コマーシャル」なサービスと連結可能、プラグイン可能なかたちをとる予定です。

■(2) 直感的インターフェイスを持つ表現ツール
西村グループの技術開発と並行して、須永グループがユーザの利活用の形をそこに提示します。メディア表現のプロセスを跡づけ、振り返ることができるデバイスと、市民が平易に活用できる映像表現・編集のための入力システムを開発する予定です。

■(3) メディア表現、メディア・リテラシーを育成するための文化的プログラム
「表現が編みあがる社会」は、情報技術やメディアがあればそれで実現するわけではありません。それらを使いこなし、個人やコミュニティのための表現の場をつくり、維持し、発展させていくことが不可欠です。そのためには、一般の人々のメディア・リテラシーやメディア表現のノウハウを育み、普及させていくための文化的プログラムが必要になってきます。須永グループと水越グループが協働して、それらを研究開発していきます。

■(4) 市民のメディア表現と情報デザインに関する文理越境知の体系化
須永グループと水越グループが中心となり、市民のメディア表現と情報デザインのための技術システムと文化的プログラムを支える、文理越境的な思想と理論を体系化します。


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